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AI競争の新潮流:シリコンバレーに挑む米国以外のAIスタートアップ
シリコンバレーを中心としたAI業界に新たな競争相手が登場しています。中国のDeepSeekは、わずか600万ドル以下のコストで開発されたAIチャットボットをリリースし、Appleの米国App Storeで最もダウンロードされた無料アプリとなりました。これにより、巨額の資金を投じるOpenAIのような米国勢に対し、コスト効率の高いAI開発の可能性を示しました。世界各地では、シリコンバレーに依存しないAIの基盤技術が開発されており、多くの企業が独自のアプローチで市場に挑んでいます。以下では、米国外の有力なAIスタートアップを紹介します。
Moonshot AI(中国)
DeepSeekと並び、中国のMoonshot AIも独自の大規模言語モデル(LLM)を開発しています。同社のモデルは、ChatGPTの文字数制限を超える長文入力に対応できるのが特徴です。2023年にはAlibaba主導のシリーズBラウンドで10億ドルを調達し、その6カ月後には評価額が30億ドルに倍増しました。また、中国ではBaichuanが700万ドルの資金調達を受け、テキスト、画像、音声、動画を統合するオープンソースモデルを発表するなど、さらなるAIの進化が続いています。
Mistral(フランス)
欧州最大のAIスタートアップとして注目されるのがフランスのMistralです。2023年6月にはNvidia、Samsung、Salesforce、Bertelsmann、ServiceNowなどから6億4000万ドルを調達し、評価額は60億ドルに達しました。Mistralは、AFP(フランス通信社)の数千本の記事を取り込み、信頼性の高い情報に基づいたAIモデルの開発を進めています。同社のCEOであるArthur Mensch氏は、「LLMを基盤としつつ、コンテキストデータと統合したシステムへ進化させる」と語っています。
Cohere(カナダ)
カナダのCohereは、エンタープライズ向けのLLM「Command R+」を開発し、OpenAIやAnthropicに対抗しています。2023年6月にはSalesforceやNvidia、サウジアラムコのProsperity7 Venturesから5億ドルを調達し、企業向けAI市場に本格参入しました。最近では、職場向けのAIプラットフォーム「North」を発表し、MicrosoftのCoPilotやGoogleのVertexと競争する構えを見せています。カナダは米国、英国、イスラエルに次ぐ生成AIスタートアップの集積地として成長しており、Cohereはその中でも特に有力な存在です。
AI21 Labs(イスラエル)
イスラエルは、世界で最も生成AIスタートアップが集中する国の一つです。2017年創業のAI21 Labsは、OpenAIのGPT-4登場以前から独自の生成AIモデルを開発しており、より長い文脈を理解できるモデルアーキテクチャを採用しています。2023年末にはIntelとComcastの支援を受け、シリーズCラウンドで2億800万ドルを調達し、評価額は14億ドルを超えました。また、イスラエルは世界最高水準のAI人材が集まる国であり、サイバーセキュリティ分野の強みも活かしてAI技術の発展を支えています。
Aleph Alpha(ドイツ)
ドイツのAleph Alphaは2019年に創業し、Bosch Venturesの支援を受けて5億ドルを調達しました。同社は独自のLLM開発から方向転換し、企業がサードパーティのモデルをカスタマイズできるツールを提供しています。このアプローチにより、特定の業界や言語に特化したAIモデルの構築が可能となり、単一のLLMプロバイダーに依存しない柔軟な市場戦略を展開しています。ドイツではHelsing(軍事AI)やCognigy(カスタマーサポートAI)なども注目を集めており、AI技術の応用分野が広がっています。
Moreh(韓国)
韓国のMorehは、AIモデルを柔軟に構築・最適化できるソフトウェアツールを開発しており、Nvidia以外のGPUチップ上でも動作可能な技術を提供しています。これにより、より低コストなチップを活用したAIインフラ構築が可能になり、企業のコスト削減を支援しています。同社はAMDや韓国の通信大手KTから資金調達を受けており、最近では韓国語対応のLLMをオープンソースで公開しました。韓国政府もAI規制フレームワークの導入を発表しており、今後さらなる成長が期待されています。
AIの未来は多極化へ
シリコンバレー以外のAIスタートアップが急成長していることは、AI技術の発展が世界的な現象であることを示しています。中国、ヨーロッパ、カナダ、イスラエル、韓国など、各地域で独自の強みを持つ企業が台頭し、シリコンバレーの優位性に挑戦しています。特に、DeepSeekやMoonshot AIのような低コストで競争力のあるモデル、MistralやCohereのエンタープライズ向けソリューション、Aleph Alphaのカスタマイズ可能なAIプラットフォームなど、多様な戦略が展開されています。今後、AI市場はシリコンバレー中心から、より多極化した競争環境へと移行していくでしょう。
DeepSeekについて
DeepSeekは、中国発のAIスタートアップで、大規模言語モデル(LLM)の開発を手掛けています。競争力のある低コストモデルを提供し、米国の主要AI企業に対抗する存在として注目を集めています。
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