ベクターデータベースのQdrant、AI開発向けにセキュリティ機能を強化

ベクターデータベースを提供するQdrantは、AI開発の安全なスケールを支援するために、セキュリティ、オートメーション、リアルタイム監視機能を強化した最新アップデートを発表した。このアップデートは、特に生成AIの開発を進める企業向けに設計されている。

ベクトルとは、テキストや画像などの非構造化データを数値化し、検索や分類を容易にする技術である。特に生成AIでは、モデルの精度を高めるために大量の高品質なデータが必要となる。OpenAIのChatGPTが登場して以来、AI技術の進化とともにベクトルの活用が広がっている。

今回のQdrant Cloudのアップデートでは、クラウド環境の管理を容易にするAPIや、機密情報をオンプレミス環境に保持しながら運用可能にするハイブリッドクラウド向けのセキュリティ機能が追加された。また、オープンソースの監視ツールであるOpenMetricsとの統合により、パフォーマンスやリソース使用状況のリアルタイム監視が可能となった。TreeHive Strategyの創設者であるDonald Farmer氏は、「開発チームは、よりカスタマイズされたマルチモーダルAIやエージェント型AIを実現するためにベクターデータベースに高い要求を課している。一方で、データのプライバシーや主権の問題も重視しており、特にハイブリッドクラウド対応の今回のQdrantのアップデートは、こうしたニーズに適合している」と語る。

生成AIの開発には大量のデータ処理が求められるため、パフォーマンスの維持が重要となる。この課題に対応するため、Qdrantは2024年1月にGPUによるベクトル検索の最適化を導入した。GPUはCPUよりも高い処理能力を持ち、コスト効率にも優れている。一方で、AI開発においてデータの安全性も重要な課題だ。企業はOpenAIのGPT-4oやGoogle Geminiなどの生成AIモデルと独自データを組み合わせてAIアプリケーションを構築するが、その際、データの取り扱いが課題となる。特に、パブリッククラウドはデータ漏洩のリスクが高いため、多くの企業はハイブリッドクラウドやオンプレミス環境での運用を選択する。QdrantのCEOであるAndré Zayarni氏は、「当社の強みは高性能なベクトル検索技術だ。しかし、AIワークロードが本格的に大規模運用されるようになった今、企業はセキュリティやコンプライアンス、運用管理の要件を満たす必要がある」と述べている。

今回のアップデートでは、以下のような新機能が追加された。
• クラウドAPI：クラウド環境の管理を容易にし、クラスター管理や認証、設定を一元化。
• 自動デプロイメント：スケーリングの自動化や、TerraformなどのInfrastructure as Code（IaC）ツールとの統合を強化。
• クラウドRBAC（ロールベースアクセス制御）：管理者がクラスター管理や請求、ハイブリッドクラウド環境の管理権限を細かく設定可能。
• OpenMetricsとの統合：クエリのパフォーマンスやレイテンシー、CPU使用率などをリアルタイムで監視可能。

Zayarni氏は、「データエンジニアや機械学習チーム、ITセキュリティ担当者、さらにはビジネス部門のユーザーまでもが、適切な権限を持ちながら、安全かつ柔軟にベクターデータを扱える環境が求められている」と説明する。また、Farmer氏は、ハイブリッドクラウド環境の管理を簡素化するクラウドAPIの重要性を指摘し、「チームが自社のハイブリッドソリューションを展開する際、インフラをコードとして管理できることは大きなメリットだ」と述べている。さらに、GPU対応の強化も重要なポイントだ。現在、市場ではGPUの供給不足が問題となっているが、Qdrantは特定のベンダーに依存せず、利用可能なGPUを柔軟に活用できるようにしている。「通常であれば、ユーザーに選択肢の自由を与えると言うが、今は『入手できるGPUを使える』ことが重要だ」とFarmer氏は述べた。

Qdrantは2021年にオープンソースプロジェクトとしてスタートし、2023年2月には商用版であるQdrant Cloudを発表した。GPU対応によるパフォーマンス向上、金融・医療分野向けのセキュリティ強化と、企業向けの機能開発を加速させている。今後は、導入の柔軟性をさらに高めるとともに、レイテンシーの低減や自動化の強化、より高度なデータ分析機能の開発に注力するという。Zayarni氏は、「今後もエンタープライズ向けのAIインフラを強化していく」と語った。

About Qdrant
Qdrantは、オープンソースのベクターデータベースを提供する企業で、本社はベルリンにある。ベクトル検索技術を活用し、非構造化データの管理・検索を容易にするプラットフォームを開発。AI開発を支援する高性能なデータ管理機能を提供し、企業向けのクラウドサービス「Qdrant Cloud」も展開している。